ホッホーとは、ふくろうの鳴き声です。また、「なるほど、なるほど、ホッホー」と感心する声でもあります。


by hohho-biny

2011年 06月 02日 ( 1 )

日の名残り

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「日の名残り」読了
カズオ・イシグロ著
(1954年長崎生まれ、5歳で家族と共に渡英)
土屋政雄訳 ハヤカワepi文庫
失われつつある伝統的な英国を描き、
1989年に英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞

格調の高い小説で、読み終わって感動の余韻に浸っています。
ラストシーン、桟橋のベンチで海の夕暮れを眺めながら涙する執事と一緒に泣いてしまいました。

語り手はイギリスの格式高い貴族社会の名家に仕えた執事スティーブンス。
品格ある執事の道を探求し続けた人生が、現在から過去へ、さらに過去へと・・・旅をしながら時間が行ったり来たりする中で静かに哀歓あふれる言葉で語られていきます。
二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々、邸主への敬愛、執事の鑑だった父の最期、女中頭への淡い想い等などが、美しい情景とともに執事の胸に深く生き続けています。
過去を回顧しながら、品格の探求、自己内省する姿は、ひとつひとつが宝さがしのようで、惹きこまれてしまいました。

読後、しきりと思い出され、胸の中で反芻している詩があります。

あけがたにくる人よ  永瀬清子

あけがたにくる人よ
ててっぽうぽうの声のする方から
私の所へしずかにしずかにくる人よ
一生の山坂は蒼くたとえようもなくきびしく
私はいま老いてしまって
ほかの年よりと同じに
若かった日のことを千万遍恋うている

その時私は家出しようとして
小さなバスケット一つさげて
足は宙にふるえていた
どこへいくとも自分でわからず
恋している自分の心だけがたよりで
若さ、それは苦しさだった

その時あなたが来てくれればよかったのに
その時あなたは来てくれなかった
どんなに待っているか
道べりの柳の木に云えばよかったのか
吹く風の小さな渦に頼めばよかったのか

あなたの耳はあまりに遠く
茜色の向こうで汽車が汽笛をあげるように
通りすぎていってしまった

もう過ぎてしまった
いま来てもつぐなえぬ
一生は過ぎてしまったのに
あけがたにくる人よ
ててっぽうぽうの声のする方から
私の方へしずかにしずかにくる人よ
足音もなくて何しにくる人よ
涙流させにだけくる人よ


詩集「あけがたにくる人よ」 永瀬清子
1987年初版  思潮社
by hohho-biny | 2011-06-02 08:26 | ホッホー文庫