ホッホーとは、ふくろうの鳴き声です。また、「なるほど、なるほど、ホッホー」と感心する声でもあります。


by hohho-biny
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ある晴れた日に

f0139963_22482938.jpg原爆記念日に毎年出して読む詩集があります。
   げんしばくだんのうた 
           小学三年 谷崎友三
  ぴかーッドン
  それは大きな音でした。
  いえはつぶけて
  でんしんぼうも たおれます。
  大きな家も たおれます
  おばあさんは しにました
  おかあさんもしにました
  町の人もしにました
  おとうさんもしにました
  みんな みんな しにました
                        おじいさんも しんでしまいました
                        ぜんぶ しんでしまいました。

詩の書き手たちは、あの日三歳か四歳だった広島の幼児から十代の少年少女たち、そして大人。書いたのは投下の年から七年後。これらの詩は長らく行李の中にとざされたままだった。
広島のこどもたちは、その日のことをしっかり記録してくれていた。
私たちの知らぬ間に、たどたどしい筆跡で、粗末な紙片に、その目で見たもの見たことを詩に書いてくれた。
そのおびただしいこどもたちからの贈り物を目にしたとき幼なくて言葉も十分に使えない子の、言葉にならない恐怖のかたまり、救けて救けてと叫ぶ必死の声が、キノコ雲のようにわき上がり、耳を強打される思いだった。この声を、紙の中に眠らせておいてはならない。日本中に、いや世界中の人々の胸に届かせなければならないと思った。とどけてはじめて、こどもたちの詩はいのちを持つとーーー。(まえがきより抜粋)

この世界最初の原子爆弾はリトルボーイと呼ばれ、長さ3m、重さ4トン、爆発力はこれ一発でTNT火薬二万トンに匹敵する巨大なものであった。爆弾は上空580m付近で炸裂し、一瞬の間に広島の人を、家を木や花を焼きつくした。
炸裂と同時に三十万度の熱線が生きとし生けるものに襲いかかりいのちの芯を焼き、九千米上空にまで不気味なキノコ雲がふきあがった。広島は一瞬の閃光ののち、暗黒の闇に閉ざされたという、黒い雨が二時間にわたって降り注いだ。

死者二十万一千九百九十人
重傷者三万五百二十四人
軽症者四万八千六百六人
行方不明者一万八千七百七十三人
罹災者十一万八千五百六人
計四十一万八千五百六人が被災した。
当時の広島市の人口は約四十六万人、実にその九割が被災している。

もうひとつ 忘れられない峠三吉の美しい詩を朗読しました。
(行李の中から出てきた原爆の詩 暮しの手帖社 1990年8月初版)

       晴れた日に     峠三吉
ききました
あなたはなんでも基町あたりに
住んでいるとききました。
にぎやかな本通りすぢの北側
電車道を渡ったずっと向う
草地のところどころに
まだ思わぬ焼け跡がのこっていて
赤錆びの大砲がころがっている
基町の 野砲隊のあと
このごろだんだん風や雨に毀れはじめた
バラック住宅の
迷路のような溝路地のどこかの奥に
住んでいるとききました。
あの八月から一年ばかり
雨の日をとくにえらんで傘にかくれ
赤十字病院に通っていたのを
やめてからずっと
どんなに良いお天気の日でも
どんなにお母さんが すすめても
家からひと足も外へ出ない
というあなた。
ちょうどあのときB29が
透きとおって ちいさくとぶのを
軒下で眺めていたため
かた腕を崩れた家の下でもぎとられ
頭から顔から胸え火傷を負い
一年かけてやっとなおったそのあとは
ケロイドの隆起が額から頸え
てらてらと
塊りついているというあなた。
それからずっと かた腕で
夏はレース編
冬は毛糸のあみ物をして
お母さんとの生活をたてている
というあなた。

娘のあなたに焼きついた
思いのかずかずを聴き出したいという
東京からの雑誌記者をつれ
ここまで来たが
母上よりほかの人には
決して会はぬとききながら
此処までさがして来ましたが
やめませう もうやめませう
あなたをさがして廻るのは。
あなたの胸のかさぶたを剥ぎとって
しみついた涙の痕を掘ることは
誰にも出来はしないのに
どうしてくらい戸口をあけて
あなたの姿に眼をやることが出来ませう。
野菜畑のゆるやかな風に風車が廻り
子供たちが
うまごやしの花を摘んであそぶ
このしづかな町 このどこかで
あなたは
しづかに齢をとっておゆきなさい。
ふくよかなるべき乳房に
永久にとけぬしこりを秘めて
かくれてくらす
あなたのような娘が
このヒロシマにいくたり居るか
あなたたちの切っても切っても盛り上がる
ケロイドは
わたしたちの 湧きあがる
くらいかなしみ
風にあたればすぐ疼きはじめるという
その傷あとは
わたしたちの心に
根深いいかりの口をあけて
塞ぐことがない。

わたしたちは このまま帰って
明るい五月のこの道の
このしづかさをもの語り
二度とこんな目に
みんなが会うことがないよう
あなたたちのかわりにも
二人分三人分の仕事を
そのためだけに働いて 働いて
倒れるまでの仕事をしようと
ちかいあい
このままだまって帰りませう。
湧きはじめた夏雲を
頭上に見ながら。
by hohho-biny | 2008-08-07 06:58 | ホッホー文庫