見えない配達夫
2008年 04月 01日
今日は4月1日
風が冷たく、桜咲けども花冷えの快晴
あれよあれよという間に季節はめぐります
入社式、転勤、花見の宴、歓送迎会、入学式、新人研修・・・新たな気持ちになる4月
めぐる季節に思い出す詩があります
まぬけな私は何を配達しているのかなあ・・・?
見えない配達夫 茨木のり子
Ⅰ
三月 桃の花がひらき
五月 藤の花々はいっせいに乱れ
九月 葡萄の棚に葡萄は重く
十一月 青い蜜柑は熟れ始める
地の下には少しまぬけな配達夫がいて
帽子をあみだにペダルをふんでいるのだろう
かれらは伝える 根から根へ
逝きやすい季節のこころを
世界中の桃の木に 世界中のレモンの木に
すべての植物たちのもとに
どっさりの手紙 どっさりの指令
かれらもまごつく とりわけ春と秋には
えんどうの花の咲くときや
どんぐりの実の落ちるときが
北と南で少しずつずれたりするのも
きっとそのせいにちがいない
秋のしだいに深まってゆく朝
いちぢくをもいでいると
古参の配達夫に叱られている
へまなアルバイト達の気配があった
Ⅱ
三月 雛のあられを切り
五月 メーデーのうた巷にながれ
九月 稲と台風とをやぶにらみ
十一月 あまたの若者があまたの娘と盃を交わす
地の上にも国籍不明の郵便局があって
見えない配達夫がとても律儀に走っている
かれらは伝える ひとびとへ
逝きやすい時代のこころを
世界中の窓々に 世界中の扉々に
すべての民族の朝と夜に
どっさりの暗示 どっさりの警告
かれらもまごつく 大戦の後や荒廃の地では
ルネッサンスの花咲くときや
革命の実のみのるときが
北と南で少しずつずれたりするのも
きっとそのせいにちがいない
未知の年があける朝
じっとまぶたをあわせると
虚無を肥料に咲き出ようとする
人間たちの花々もあった
地の下にも 地の上にも、
「見えない配達夫」がいて、逝きやすい季節のこころを、逝きやすい時代のこころを、根から根へ、ひとからひとへと伝えると詩っています。
彼女は素晴らしい日本語の使い手で、素敵な感性の持ち主でした。
何度も何度も読み返したい詩がたくさんあります。
私も「見えない配達夫」になりたいなあと憧れます。
風が冷たく、桜咲けども花冷えの快晴
あれよあれよという間に季節はめぐります
入社式、転勤、花見の宴、歓送迎会、入学式、新人研修・・・新たな気持ちになる4月
めぐる季節に思い出す詩があります
まぬけな私は何を配達しているのかなあ・・・?
見えない配達夫 茨木のり子
Ⅰ
三月 桃の花がひらき
五月 藤の花々はいっせいに乱れ
九月 葡萄の棚に葡萄は重く
十一月 青い蜜柑は熟れ始める
地の下には少しまぬけな配達夫がいて
帽子をあみだにペダルをふんでいるのだろう
かれらは伝える 根から根へ
逝きやすい季節のこころを
世界中の桃の木に 世界中のレモンの木に
すべての植物たちのもとに
どっさりの手紙 どっさりの指令
かれらもまごつく とりわけ春と秋には
えんどうの花の咲くときや
どんぐりの実の落ちるときが
北と南で少しずつずれたりするのも
きっとそのせいにちがいない
秋のしだいに深まってゆく朝
いちぢくをもいでいると
古参の配達夫に叱られている
へまなアルバイト達の気配があった
Ⅱ
三月 雛のあられを切り
五月 メーデーのうた巷にながれ
九月 稲と台風とをやぶにらみ
十一月 あまたの若者があまたの娘と盃を交わす
地の上にも国籍不明の郵便局があって
見えない配達夫がとても律儀に走っている
かれらは伝える ひとびとへ
逝きやすい時代のこころを
世界中の窓々に 世界中の扉々に
すべての民族の朝と夜に
どっさりの暗示 どっさりの警告
かれらもまごつく 大戦の後や荒廃の地では
ルネッサンスの花咲くときや
革命の実のみのるときが
北と南で少しずつずれたりするのも
きっとそのせいにちがいない
未知の年があける朝
じっとまぶたをあわせると
虚無を肥料に咲き出ようとする
人間たちの花々もあった
地の下にも 地の上にも、
「見えない配達夫」がいて、逝きやすい季節のこころを、逝きやすい時代のこころを、根から根へ、ひとからひとへと伝えると詩っています。
彼女は素晴らしい日本語の使い手で、素敵な感性の持ち主でした。
何度も何度も読み返したい詩がたくさんあります。
私も「見えない配達夫」になりたいなあと憧れます。
by hohho-biny
| 2008-04-01 08:19
| 詩の時間