ガブリエル・バンサンの絵本 ”老夫婦”
2012年 05月 09日
ベルギーの画家、ガブリエル・バンサン(2000年9月永眠)の絵本が好きです。
ホッホー文庫には、バンサンコーナーがあり、いつでもバンサンの世界にひたれるようにしてあります。
”老夫婦”は、かつて一世を風靡じたブリュッセル生まれの歌手ジャック・ブレル(1929~1978)のシャンソンに、感銘を受けたバンサンが絵筆をふるって絵本にしました。
生きること、老いること、死ぬこと、人生の旅路の果てを見事に描いて、胸に迫ります。
誰にもいずれ訪れるであろうシーンが、淡彩の水彩画の余韻に漂っていて、老いと真摯に向き合う姿に引き込まれます。
「老い」という現象を、甘えを一切排除したリアルな詩と絵の表現に感動します。
年老いたふたりには、いまはもう話すこともなく、ときおり、おたがいにそっと目をやるばかり。
お金があろうとなかろうと、みじめさはかわりなく、もうゆめもなく、思いやりがあるばかり。
ふたりの家は、香草とラベンダー、それにこざっぱりしたにおいがして、昔の言葉が行き来する。
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時計はサロンで、にぶく時を打ち、「そうだね」とも「いンや」とも、「わしはお前らを待っとるよ」とでもいうかのよう。
年老いたふたりは、いまはもうゆめみることもなく、本も眠気をさそうばから。ピアノのふたもずっと、とじたまま。
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1996年5月 第1刷 2006年7月 第6刷
絵 バブリエル・バンサン 詞 ジャック・ブレル 訳 今江祥智 BL出版